プロジェクトの背景

プロジェクトの趣旨

 「なごやかモデル」の目的は、住み慣れた土地で、豊かに老いを迎え、その人らしく暮らすことのできる社会作り(エイジング・イン・プレイス、AIP)を支える医療人材の育成です。今後予想される病院から在宅への医療ニーズの急速なシフトを、単なる高齢化対策ではなく、未来医療への新しいトレンドとして位置づけ、AIPの実現と発展、質の保証を担う総合診療医、薬剤師、看護師、理学療法士、ICT医工学者、そしてさらに広い職種を含む多職種連携チームを育てます。

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プロジェクトの背景

日本の若者たちの生涯の活躍の場は世界一の高齢先進国

 平成24年の総務省の国勢調査および人口推計では、現在の日本の高齢化率(人口に占める65歳以上の人の割合)は24.1%ですが、人口の高齢化は今後急速に進行し、2060年までに39.9%にまで増加すると予測されています。そして、その間、日本の高齢化率は先進国およびアジア諸国の中で1位を維持し続けます。2060年とは、現在19歳の若者が65歳になる年であり、今、大学にいる学生達が活躍する場は、世界一の高齢化社会であると言えます。

これからの人口高齢化は地方よりも大都市の課題

 日本の高齢者人口は、2005年から2035年の間に約1000万人増加すると推計されていますが、その54%は、東京、神奈川、大阪、埼玉、愛知、千葉の6都道府県に集中しています(図1)。これからの人口高齢化は、地方よりも名古屋市などの大都市圏の課題です。

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図1. 高齢者人口の都道府県別の増加数および上位6都道府県の増加率 (2005年→2035年)
国立社会保障・人口問題研究所「日本の市区町村別将来推計人口」(平成20年12月推計)より作成

医療のウェイトは入院から在宅にシフト

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図2. 死亡の場所別にみた死亡数・構成割合の年次推移

 厚生労働省の人口動態統計年報によれば、1950年頃の日本では、国民の82.5%が自宅で最期を迎え、病院で亡くなる人は9.1%でした。この比率は1970年代の終わりに逆転し、現在では77.9%の人が病院で亡くなっています(図2)。

 現在、1年間に亡くなる日本人は約120万人で、年間約94万人が病院で亡くなっています。今後、人口の高齢化に伴い、年間死亡者数は2040年には年間167万人に増加すると推定されています。一方、入院病床数はこれ以上増やせないといわれています。病院での看取りのキャパシティが現在と同じ年間934万人であるとすると、73万人(44%)の人は病院外で最期を迎えることになります(表1)。医療のウェイトは、入院から在宅へと急速にシフトしていくことになるでしょう。

表1. 日本人の死亡の場所とその変化の予測
  2009年 2040年
年間死亡者数 120万人 167万人
病院で死亡 94万人(78%) 94万人 (56%)
病院以外で死亡 26万人(22%) 73万人(44%)

「住み慣れた場所でずっと自分らしく暮らす」のが皆の願い

 平成25年厚生労働省意識調査をはじめ、複数の調査で、国民の6割の人が、治る見込みがなく死期が迫っていると告げられた場合、できるだけ長く自宅で療養したいと回答しています(図3)。

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図3. 治る見込みがなく死期が迫っていると告げられた場合に、終末期を過ごしたい場所
平成25年厚生労働省意識調査より作成

 住み慣れた場所でずっとその人らしく暮らせる社会づくりを表す概念として、エイジング・イン・プレイス (AIP)という言葉があります。AIPの実現は多くの国民の願いであり、それをかなえることは未来医療の課題です。病院診療から在宅診療への医療ニーズのシフトは、単なる人口高齢化対策ではなく、未来医療へのトレンドと考えることができます。これからの医療人は、質の高いAIPを実現する医学・医療の担い手となる必要があり、以下のような能力を持った人材の養成が大学の急務であると考えます。

  1. AIPのための多職種連携と、情報コミュニケーション技術による保健・医療・福祉システムの構築
  2. AIPコミュニティの質を保証する医学・医療・医工学等の研究の遂行とエビデンスの発信