AIPを支える医療イノベーションのための実証研究フィールドの形成

 AIPを単なる高齢化対策ではなく、未来医療としてとらえる時、そこには医学的に未開拓のフィールドが広がっており、現代医学の限界を超えるような新しい診断法や予防法、さらには新しい健康や治療の概念など、これまでとは異なった方向の先進医療や先端技術が生まれる可能性があります。「なごやかモデル」では、AIPが持っている大きな可能性を保健・医療・介護の技術の発展に活かすために、大学間、産官学間の連携による研究を積極的に誘致したいと思います。また、鳴子地区の住民の方への情報提供や説明会を積極的に行い、住民との間で新しい技術についての情報の共有に努めたいと思います。そうして得られる相互信頼の基盤の上に、新しい医学や医療技術のインキュベーション・フィールドを形成し、そこから得られる知見や新技術を、住民の方との連帯感と誇りをもって世界に発信して行きたいと思います。

自宅での連続モニタリングがもたらす医学・医療のパラダイムシフト

 近年、生体信号モニタリングと情報通信によるデータ収集技術が急速に進歩しており、ありふれた生体指標や、それまで医療や健康には関係がないと思われていた指標でも、長期間に亘って連続測定すると、従来知られていなかった新しい診断法が開発される可能性があります。例えば、心拍数の変化を長期にわたって測定すると、脳活動の評価、数年以内の突然死や志望リスクの予測が可能であることが分かってきました。また、一人暮らしの高齢者の水道使用量の連続記録から入浴回数の減少がわかり、それが認知症の発見に役立つという知見もあります。生活環境における連続モニタリングは、健康や病気、治療の概念、さらには自分の健康に対する個人の関わりやそれを支援する医療者の役割などにもパラダイムシフトをもたらす可能性があります。

 医・薬・看・リハビリテーションおよび工学が密接な連携体制をとる「なごやかモデル」は、この領域の研究に最適な条件を備えており、新しい医学・医療の開拓に挑戦する人材を育成していきたいと思います。

救命と治療中心の医療から生活機能の維持を目指す医療へ

 病院における医療の目的は、救急で運ばれた人の救命と入院患者の疾患の治癒にあるのに対し、AIPを実現するための医学では、在宅における生活機能の維持が重要な目標です。現在、人口の高齢化に伴い運動器症候群と認知症が大きな課題となっていますが、生活機能を障害するこれらの状態の発症を予測する因子や予防法の研究は途についたばかりです。また、加齢に伴う複合疾患をもつ高齢者では全ての疾患を治療することは困難で、インテンシブな治療は生活機能をかえって悪化させる可能性もあります。AIPの実現のためには、従来の医学や医療とは異なった、生活機能の維持を目標とする予防や治療法についてのパラダイムが必要です。「なごやかモデル」ではこのような新しいパラダイムの形成とそれを支える研究を担う人材を育成していきたいと思います。

AIPを支える医工学の実証研究フィールドの形成

 AIPの実現には、情報通信技術(ICT)やロボット技術などの医工学との連携が重要な鍵となります。在宅医療では、チームを構成する職種がそれぞれ別々の職場に従事し、それぞれのスケジュールで患者宅を訪問することが一般的であるため、的確な連携のためには職種間の情報共有を支えるICTネットワーク技術がかかせません。また、在宅医療や介護を支える技術として医療、介護、リハビリなどを支援するロボットや運動機能を支援する移動手段などの開発が急速に進んでいます。技術開発には実証研究のためのフィールドが必要です。

 「なごやかモデル」では、ユーザーである医療・福祉関係者と患者およびその家族からのフィードバックを基に、ユーザーと企業や大学の開発者が一体となって技術を育てていけるような環境と多職種連携プロジェクトチームをつくっていきたいと思います。